宵闇月夜神社の巫女 人であり人ならざる者

【小説】宵闇月夜神社

 日本のどこかに 宵闇月夜神社(よいやみつきよ じんじゃ)という神社があるという。
 古来から続く神職一族を最後の一人まで根絶やしにしようとした荒魂に、唯一対抗できた祟り神が祀られる神社である。
 祟り神はその力がゆえに、呪いを解き、霊障を沈める力があるとしてとある森にひっそりと存在している。

 森に囲まれた小さな神社の境内で、明け方前(午前三時ごろ)魂鎮めの祝詞が響く。
 
 宮司は40代ほどであり、その祝詞には力強さと心地よいリズムが感じられる。
 祝詞は言霊によって神をたたえるためのもの。その音程とリズムは決まっている。
 そしてこの祝詞はただの祝詞ではなく、魂を沈めるためのものだ。
 宮司は線の細いどこかはかなげな男性であった。
 遠く神職の血をひきながら、一族親きょうだいにいたるまで荒魂に殺された。
 この神社に祀られた祟り神の力によって、ただ一人生き残ったのだ。
 その斜め後ろには巫女姿の少女が一人。
 まだ16歳になったばかりの巫女は凛とした目元を長い睫毛が彩っている。
 どこかエキゾチックな顔立ちながら、日本古来の美も継承している。
 どこか不思議な雰囲気のする少女だった。
 彼女は高校生である。毎日夜中に遠くから歩いて通っている。

 紅紅葉(べにくれは)は本名ではない。それは彼女の因果を表す名前だ。
 人としては違う名で呼ばれている。

 紅葉と宮司の出会いは少し前になる。
 紅葉の友人が祟られたのだ。
「決して触れてはいけない禁忌」に友人は知らず知らずに触れてしまった。
 人間の中には、「人ならざる者」が存在する。
 その人ならざるものを怒らせた友人は、呪いではなく祟られたのだ。
 それは非常に巨大な存在であり、友人は立つだけで骨が折れ内臓から出血する奇病に侵された。
「呪われた」
と騒ぐ我が子を案じて両親は霊能者を招いた。
 霊能者は
「私では無理です」
と言って逃げかえったが、数日後に命を落とした。

 紅葉は祟りを起こした「人ならざる者」の血族であり、人ならざる者に「祟りの解き方を」聞いた。
「悔い改めよ。さらば救われん」
 友人は悔い改めるか死ぬその日まで、動けないまま本来の寿命を全うしなければならない。
 殺してくれないのだ。自殺もできない。

 そんな友人の親が調べに調べてたどり着いたのが、宵闇月夜神社であった。

 しかし宮司は祟られた友人が敷地内に入ってきた瞬間、
「その子はもうだめだ。何をしたのかはわからないが、その子の祟りを解くことはできない。その祟りはずっと格上の方からの祟りだ。この神社では解くことはできない」
と断った。
「宵闇月夜の神があなたたちが来たことで荒ぶっている。このままでは大変なことになる。すぐに帰ってくれ」
 友人についてきていた紅葉に宮司は呼びかけた。
「君は・・・?宵闇月夜の神様をなだめるために手を貸してくれないか」
 紅葉は「どうしてですか?」と聞いた。
「君は神様をなだめる力がとても強い。残って手伝ったほしい」
 そして紅葉と宵闇月夜の神の縁が結ばれた。

 朝5時。学校に行くために一度自宅に戻ろうと紅葉は宮司に挨拶をして神社を出た。
 
 リンと張りつめた朝の空気がすがすがしい。
 まだ夜は明けきらず闇がそこらに漂っている。
 それもすぐに消えて人間の時間がやってくる。
 紅葉は着替えて歩き始めた。

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