【解呪巫女】いじめられっ子と餓鬼 前編

【小説】宵闇月夜神社

 中学2年生。鹿原みさきは窓から楽し気に家路につく同じ中学校の生徒たちを見てため息をついた。
 彼女はふくよかだった。
 制服は特別注文だった。大人しい子で自己主張をあまりしない。
 そんな彼女は中学生の思春期にありがちな虐めの対象になった。
「デブ」
「ブタ」
「デブス」
 彼女は決して不美人ではなかったが、だからこそ目立った。
 太っていても目は大きく睫毛は長くぱっちりとしていた。
 顔立ちが整っているのだ。脂肪には隠せない美貌。
「痩せれば美人になる」
とよくおばさんたちから言われていたが、本人はそうは思っていなかった。
 彼女はよくいじめられた。
 太っているが美人で大人しい。それはいじめっ子の心をくすぐるらしい。
 
「みさき、邪魔だよ」
 黙って机に座って本を読んでいたみさきの椅子を女は思いっきり蹴り上げた。
 みさきがびっくりして振り返る。
「お前幅が広いんだよ!他人の倍はあるんじゃないの?」
 蹴った女が笑う。みさきは本から目を戻し硬直する。
 反応してもしなくても同じなのだ。
 目の前の本の目がかすむ。涙が目からこぼれ落ちそうになるのを必死で我慢する。
「デブスでアホのくせにいつも本読むんじゃないよ!」
 女の取り巻きがみさきの読んでいた本を取り上げた。
「そうよ返事しなよ!デブス!」
 椅子をガンガン蹴る。取り巻きの女はみさきの読んでいた本を床にたたきつけて踏みつける。
 取り巻き女の足の下で本が変形して床の汚れを拭きとってしまう。
「やめてよ!」
 みさきが立ち上がって叫んだ。
 蹴っていた女がみさきの胸元をつかむ。
「調子こくんじゃねーよ!デブス!」
 女はみさきを引きずり倒して、本を拾ってみさきの顔にたたきつけた。
「ちょっとは痩せろよ!見苦しいんだよッ」
 教室にいた他のクラスメイトは彼女たちに目もくれない。
 みさきがいじめられていても、かばってくれたことなど一度もない。
 
 体操服に着替えた後の制服をトイレに捨てられたり、図書館から借りた本に絵の具をぶちまけられたり。
 虐めらしい虐めを受けた。
 担任に相談しても「大変ね」の一言で、友達もいない。
 とぼとぼと帰っていると、小さな子供が道路に立ってこちらを見ていた。
 古びた昔の着物を着たガリガリに痩せてお腹だけが出た子供だ。
 目がぎょろぎょろと動いている。
「お姉ちゃん、哀しそうだね」
 子供はみさきを見上げる。みさきのマヒした感情はどう見ても不自然な子供を見ても何も感じない。
「いじめられて学校に行きたくないんだけれど、いかないとお母さんが心配するから」
 ぼろぼろと涙がこぼれる。子供はそっと骨のような手を差し出した。
「かわいそう。ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんをいじめる子たちに復讐してあげる。だからお姉ちゃんの体を貸してよ。大丈夫だよ。お姉ちゃんの体を借りてご飯を食べたいだけなんだ。体を貸してくれたら、そのいじめっ子たちに復讐してあげる」
 子供はそういって手を差し伸べる。
「僕に体を貸してくれるだけで、復讐できるんだよ。あの女たちに」
 子供はニタリと笑った。
 みさきはその子の手を取った。
「約束」
 そう言い残し、目の前の子供は消えた。
 みさきはものすごい飢餓感を感じてへたり込む。

 お腹が空いた。
 お腹が空いた
 お腹が空いた

 這うようにして家に戻る。
 冷蔵庫を開ける。
 片っ端から口に詰め込む。
 生の牛肉、生のウィンナー・・・
 普段は食べないものまで口に入れる。
 ねっちゃねっちゃと口の中で生肉が歯に潰される。
 それさえ咀嚼して、次の肉を詰め込む。
 大根をかじり始めた時点で急に立ち上がりトイレへ走った。
 
 胃が受け付けず、胃の中のものを全部吐き出す。
 涙があふれ、喉や口の中が酸で荒れて痛い。
 また冷蔵庫の前にいった。
 座り込んで手当たり次第にものを食べる。
 
 冷蔵庫のものが空っぽになったころに母親が帰宅した。
 悲鳴を上げて母親はみさきを冷蔵庫から引きはがした。
 奇声を上げて食べ物のそばに戻ろうとするみさき。

 その日からみさきは学校に現れることはなくなった。

いじめられっ子と餓鬼>>>【続く】 

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