【解呪巫女】桜ふぶく刻1-祟り-

【小説】宵闇月夜神社

 山桜は染井吉野より早く咲く。
 染井吉野とは違う凛としたその美しさは、山にいち早く春の訪れを告げる。
 紅葉は参道の横に咲く一本の山桜の下で足を止めた。
 美しく咲き誇るピンク色の花は生命力にあふれている。
(桜は葉桜がいい。葉の緑と花のピンク色の対比が美しいから)
 紅葉の母親がそうつぶやいていたのを思い出す。
 自分に仇なすものには呪いを食らう白蛇神でさえパニックになるほどの祟りを成す母親。
「普通じゃないわよね・・・。ね?」
 桜が風に震える。気には木霊が宿る。それはただそこにある。
 母は言った。
「あなたが行っている神社は、あっちの方角でしょ?ガタガタの参道をのぼった丘の上。木々が隠している広くはない神社」
 紅葉の通っている神社の場所は母には教えていない。
 母はまっすぐ神社を指さした。そして風景まで言い当てる。
「異常よね」
 桜はふるふると震えた。もうすぐ葉が出て、母の好きな色になるだろう。
 
 紅葉は神社まで石段を登り切った。
 時刻は午後。
 世間を騒がせるウィルスのせいで、学校は休校だ。
 退屈で死にそうなので、神社に来たのだ。
 実は家も母が呼んだモノが徘徊しているので、休まらない。
 母は無意識だ。彼女を守るために、たくさんの人ならざるモノが集まってくる。
 それは無数のオーブと言われる光の玉になって、母がいる場所に雪のように漂っている。
「宮司さんこんにちは」
 境内を掃き清めていた宮司がこちらを見る。
「お疲れ様。コロナウィルスすごいね。テレビは全部コロナウィルスだよね」
「大変ですよね。出かけられないのも退屈すぎて嫌なんですけどね」
 自分も竹ぼうきを出してきて、一緒に境内の葉っぱを集める。

 二人で世間話をしながらはっぱを集めていると、男性が境内に訪れた。
「あの・・・ご相談がありまして」
「どうぞ」
 宮司が社務所に男を案内する。
 紅葉はソファに座った二人に桜茶を入れる。
「あの・・・こちらの神社は呪いに詳しいと聞きまして・・・」
 待ちきれなかったように男が切り出す。
「どうなされました?」
 男は話し始めた。

 彼はとある県に住む大地主の末裔だという。
 時代とともに土地は少なくなっていった。
 そして土地を出ていく人も多くなり、彼自身も都心に引っ越して家族を作った。
 そして先祖伝来の土地を売り払った。
 その跡地は土地開発の波にのまれて人工物の立ち並ぶ場所となった。
「土地を売ってしばらくしてから、夢を見るようになったのです」
 ピンク色の薄絹を着た女性とその女性を囲むたくさんの子供たちが、恐ろしい目で睨んでくるのだという。
「約束を守らなかった。お前たちにもらたしたものは返してもらう」
 女はそう言った。
 そしてそれから、男の息子は白血球が異常に増える奇病にかかった。
 肌は 
 原因はわからないと医師は困り果てた。
 そしてある夜。
「お姫様が迎えに来たから帰る」
と言って目を閉じた。そして目を開けずに逝ってしまった。

 男の仕事は土地の売買だったが、トラブルが続出して会社も倒産の危機にあるという。
「夢をみてからなんです・・・全部」
 紅葉は宮司の横に座ると男を見つめた。
「オヤジがここだけは売るなといったところまで売っちまったから・・・祟られたんだと」
 紅葉は顔を手で覆い泣き出す男。
「お父様が『売ってはならない』とおっしゃられた場所もお売りになったのですね。
 そこに咲き誇る万年桜と周囲にその子供たちにあたる桜もある美しい場所ではありませんでしたか?」
 男は涙でぬれた顔を上げ、紅葉を見た。
「あなたたちの一族は毎年その桜の下でお花見をするのが決まりだったんですよね」
「そうです!そうです!」
「あなたはその桜の管理が嫌になったんですね。桜は虫がついたり病気になったりと手がかかりますもの」
「なぜそれを・・・」
 男は茫然としている。
 紅葉は宮司を見た。宮司は目を閉じてうなずく。
「その桜はあなたの一族を守る神様だったんです。
 その桜の下でのお花見は、神様に感謝をして力を分けていただくための儀式でした。
 人の命が今よりとっても軽んじられた遠い昔のお話ですけれど・・・」

 紅葉はその桜と男の一族の過去を話し始めた。

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